2013年研究室報告
順天堂大学消化器内科同窓会「済衆会」用の原稿を転載させていただきます。
肝胆膵疾患の診断と低侵襲治療を担当する研究室です。現在、椎名秀一朗、崔仁煥、佐藤隆久、丸木実子、石井重登、金澤亮、小森寛子が在籍しています。昨年12月に私(椎名秀一朗)が東京大学から、佐藤隆久が杏雲堂病院から加わりました。本年4月に松村祐志が千葉徳洲会病院に移り、丸木実子が順天堂大学浦安病院から、石井重登が東部地域病院から戻り、金澤亮が順天堂大学浦安病院に出向しています。また、渡辺教授のご高配により、稲見義宏先生、斉藤紘昭先生、伊藤智康先生も検査や治療に参加しています。なお、昨年12月に、「研究室の名前に『治療』という言葉を加え『画像診断・治療研究室』とすることを理事会で決定した」、とのお話がありました。
胆膵領域の検査や治療に関しては、これまで通り、内視鏡や超音波を使用したinterventionを積極的に実施しており、日常の診療に加えて、緊急症例にも遅滞なく対応しています。昨年度はERCPを451件、ESTを76件、ステントを94件、ENBD を116件、PTCD等を253件、超音波内視鏡を421件、FNAを66件、MRCPを923件実施しました。研究としては、非アルコール性早期慢性膵炎疑診例に対するlow fat dietの有用性の論文が欧文誌(Pancreas 42;49-52:2013)に掲載され、また、DDW(San Diego)を始めとして、内外の学会で特別講演やシンポ、パネル、ワークショップなど計22回の学会発表を行っています。胆膵の悪性疾患の症例数は全国でも上位に位置するため、今年度からは多施設共同臨床研究にも参加し、治験薬なども積極的に導入していくことになりました。肝胆膵外科とも連携して診療を進めていきますので、患者さんがいましたらご紹介下さい。
血管造影は当研究室の特色の一つですが、現在、放射線科とも連携して昨年度は計205件の血管造影(そのうち201件がTAE、TAI)を実施しています。門脈腫瘍栓症例に対するDSM-TACEなどに特色があります。肝癌症例の増加に伴い、肝動脈塞栓術や肝動注化学療法などのinterventionを伴う血管造影がさらに増加するものと予想されます。
また、体外式超音波は6262件、CTは5214件実施しています。
さて、私は、前任地で肝癌の低侵襲治療を中心に研究、診療にあたってきました。肝細胞癌では肝硬変や多発病変のため外科治療の適応となる症例は限られ、切除しても高率に再発します。根治的でありながら低侵襲で再発にも対応できる治療を研究し、エタノール注入療法から始まりラジオ波焼灼術に至りました。やがて他の大学病院などからも治療困難という理由で患者さんを紹介されるようになり、結果としてラジオ波の実施数は約8500例とおそらく世界最多になりました。それらの多数の臨床情報をデータベース化して解析を進め、ランダム化比較試験等の臨床研究も実践してきました。これらの経験を基にさらなる診療・研究のシステムを構築していきたいと考えています。 最近では大腸癌や胃癌の肝転移のラジオ波が増加しています。転移性肝癌でも10年以上の生存が何名も存在し、2000年3月にラジオ波を実施した直腸癌肝転移の女性は、現在96歳になっています。なお、昨年12月に着任してから7ヶ月間で270例にラジオ波を実施しています。
肝胆膵領域は、内視鏡や超音波を使用したinterventionなど、技術的側面を強く持つ領域です。トレーニングプログラムを開設し、本学や関連施設のみならず他施設の医師にも広く門戸を開き、基本的手技から応用技術までをカリキュラムに沿って習得させるシステムを構築できればと考えます。他施設の医師をも指導することは、知識・技術の体系化につながり、他施設の経験や技術を知る機会も増え、当方のレベルアップにも寄与すると思われます。このため、本年6月には各地から希望者を集め、第1回のラジオ波焼灼術トレーニングプログラムを実施しましたが、好評でした。今後も2~3ヶ月毎に全国から希望者を募り、トレーニングプログラムを実施する予定です。肝胆膵領域のinterventionの発展に本学がリーダーシップを取って貢献できればと考えています。
国内だけでなく海外からも治療を望む人々が集まるような医療を行ない、本学及び日本の消化器病学の評価を高めるよう頑張りたいと思います。ご指導、ご支援をよろしくお願い致します。 (椎名秀一朗)