モンゴル訪問(2) モンゴルのアブレーションについて
今回のモンゴル訪問の目的のひとつは、モンゴルの肝癌診療の現場を視察することにあった。
モンゴルは人口当たりの肝癌死亡率が世界で最も高い国である。2020年には人口328万人のモンゴルで2,236名が肝癌で死亡している。
モンゴル国立がんセンターは270床とそれほど大きくはない病院だが、 年間600例の肝切除、1,500例の肝動脈塞栓術を実施している。この症例数は日本のどの病院よりも多い。ラジオ波焼灼術などのアブレーションも年間500〜600例に実施しているとのことである。
国立がんセンターでアブレーションを見学した。
国立がんセンターは滞在中2回訪問したが、最初に訪問した際(8/7)には6症例のコンサルテーションがあり、それらの症例に実際に超音波を当てるように言われた。日曜日にもかかわらず患者を来院させていた。
モンゴルでは大部分が進行癌の状態で見つかるのではないかと思っていたが、6例中5例はアブレーションも適応となる症例だった。このような無症状の癌がどうして見つかるのか疑問だったが、B 型肝炎患者や C 型肝炎患者に対しては肝癌のサーベイランスも行なっているとのことだった。
「何か起こっても自分たちが責任を持つから、患者を実際に治療して欲しい」と提案されたが、慣れない機器を使って見知らぬスタッフと組んで治療を行うのはリスクが高いため断った。
2回目の訪問(8/9)では IVR 科のYumchinserchin部長が 下大静脈から1.5cm の距離にある右肝静脈に接したS7の14mmの肝癌をラジオ波治療を実施するのを見学した。フリーハンドで穿刺したがきちんと病変を捉えたように思う。プローブをかなり見上げて60°〜70°の角度で穿刺していたため、20 cm電極がようやく届く深さになってしまっていた。
2例目にマイクロ波治療が予定されていた症例は、 S8の30mm強の病変でグリソン鞘の前区域枝から3mm程しか離れておらず焼灼範囲の調整が難しいと思われた。結局、この症例は外科に相談するという話になってマイクロ波による治療は行われなかった。
全体としてレベルは高い。年間500〜600例のアブレーションをしているので当然かもしない。
私たちとの違いは、
- 術者と同じ側に超音波機器が置いてあるため、体をひねって穿刺しなければならないこと
- 鎮静レベルが浅く、患者はほとんどアラートであること
- フュージョンや造影超音波が使えないこと
- 患者の体位をアップライトポジションなどにできる専用の治療台がないこと
- フリーハンドで穿刺をしていること
- 肋間からのアプローチを極力避けようとすること
- アプリケーターを抜去する際に、止血操作のために穿刺経路を焼灼すること
- 人工腹水法は2年間実施していないとのこと
- 原則は翌日退院で評価CTや採血は2か月後とのこと
などだった。
使用しているアブレーションの機器は、ラジオ波焼灼装置はSTARmed社製とRFmedical社製、マイクロ波焼灼装置はECO社製ともう1社の製品(Mimapro社と韓国の企業が共同開発したものとのことだが、詳細不明)だった。モンゴルは韓国との関係が深いものと思われた。
椎名 秀一朗