順天堂大学画像診断・治療学 医局ブログ

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第58回日本肝癌研究会「Lead the world:新たな肝癌診療モデルの構築」を開催して

2022年 5月12日(木)、13日(金)に東京、虎ノ門ヒルズフォーラムで第58回日本肝癌研究会を開催しました。

現地参加と Web 参加のハイブリッド形式でしたが、参加者は現時点で 971名(オンデマンド配信を終了するまでは参加を受け付けます。肝臓専門医更新に必要な3単位が取得できます)で、現地参加は503名でした。 

新型コロナウイルスの感染も一時期と比べると落ち着いているためか、久々に現地参加がWeb参加よりも多くなり、活気のある学会となったように思います。「久しぶりにたくさんの先生方とお会いできてよかった」「より深い議論ができた」という声も聞かれました。

第58回日本肝癌研究会のテーマは「Lead the world:新たな肝癌診療モデルの構築」にしました。
これまで日本は肝癌の診療では世界をリードしてきました。ご存知のとおり、日本の肝癌患者の生存率の高さは世界でも群を抜いています。
日本では肝癌発生の高危険群を設定し、超音波検査と腫瘍マーカーによる定期的な検査により、肝癌早期発見のシステムを構築してきました。
また、日本で発展した精緻な画像診断や病理診断も予後改善に大きな貢献をしてきました。
さらに、日本の肝切除、肝動脈塞栓術、エタノール注入を始めとしてラジオ波焼灼術やマイクロ波焼灼術などのアブレーションはその技術と経験により世界を牽引してきました。

しかし、肝癌診療の環境は急速に変化してきています。
まず、肝癌発生の原因が肝炎ウイルスからNASHなどの非ウイルス性肝疾患へとシフトしています。
さらに、患者の高齢化も進んでいます。
そして、医療費の高騰により、今まで以上に医療経済的な視点も必要となってきています。

肝癌診療の分野で日本が世界をリードしてきた1つの要因は、日本の患者数が欧米に比べて圧倒的に多かったということがあります。米国ではliver cancerというのは rare disorder だとされてきました。ところが、American Cancer Society のHPによると、米国では年間41,000例以上が肝癌と診断され、30,000例以上が肝癌で死亡するとされています。米国の症例数の方が日本よりも多くなってきています。
そして、アジア諸国も急速な経済発展を背景に、日本が構築してきた肝癌診療モデルと同様のものを構築して、発言力を強めています。今回は、 日本、韓国、台湾合同で肝癌の治療戦略や今後の方向性を議論する日韓台ジョイントシンポジウムだけでなく、シンポやパネルなどでも海外の情報を積極的に取り入れ、また、海外の先生方にも演題を発表してもらうことにしました。

日本が今後も世界をリードしていくためには、日本の肝癌研究の実績を再評価し、肝癌診療の環境の変化や世界の潮流をしっかりと捉えて、新たな肝癌診療モデルを構築する必要がありました。

参加者が、肝癌診療に関する新たな知見や情報に触れ、視点を広げ考察を深めることができたのではないかと感じています。その結果が肝癌診療がさらなる高みに向かうことを願っています。


第58回日本肝癌研究会 会長 
椎名 秀一朗

          

  

            

 

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