International RFA training program を開催して ー 椎名 秀一朗 (Shuichiro Shiina)
ラジオ波焼灼術が広く臨床で行なわれるようになり16年が経過した。ラジオ波焼灼術は現在では国内外のガイドラインでも推奨され、肝細胞癌に対する標準治療となっている。適切に実施されれば根治性があり低侵襲でもあるということで、今や数多くの施設で実施されるようになってきた。一方で残念なことに、一見すると単純な手技だと解釈され、十分な研鑽なしに実施されていることも少なくない。また、学会でもラジオ波焼灼術の技術面について正面から取り上げて議論されることはほとんどない、というのが実情である。 このため、外科手術以上に、施設間、術者間の成績格差が大きいとも言われている。
かねてから技術格差の解消の必要性を強く感じ、そのために国内医師を対象にトレーニングプログラムを企画し実施してきたが、この度海外の医師にも範囲を広げinternational RFA training programを実施した。内容は国内のトレーニングプログラム同様にレクチャーとライブデモンストレーション、ケーススタディの3つを柱とし、7日間にわたる長期のプログラムを組んだ。台湾から4名、中国から4名、インドネシアから3名、フィリピンから2名の計13名の医師が募集に応じ参加した。期間中の経緯や各医師の感想等はブログにあるとおりである。
参加者達は順天堂の世界に誇る施設や機器、我々の技術に何度も感嘆の声を上げる場面があった。しかし、7日間の見学と講義を経験した医師達に伝えたかったのは、目に見える最新鋭の医療設備、医療機器やテクニックだけではない。実は、低侵襲なラジオ波焼灼術で外科手術以上の成績を上げていくためには、綿密な術前プランニング、技術と経験に裏付けられた治療の実施、わずかな癌の残存をも見逃さない術後の画像評価が必要なのだという事実を伝えたかった。癌を治すのだという強い意志と集中力、経験に裏付けられた知識と判断力、患者に対する誠意と責任感が必須だという事実を学んでほしかった。今回参加した医師達の病院はJCI (Joint Commission International) 認定施設であり、最新鋭の医療設備が整っているはずだが、それでも順天堂ほどの恵まれた環境はないと思われる。帰国後、それぞれの環境の中で、癌を治すのだという強い意志を持ち、地道な努力をし、患者のために誠実かつ精確な医療を行なう方途を体感してほしかったのだが、どうだったであろうか。
5日間の治療日に計15症例の28病変にラジオ波焼灼術を実施した。初発でサイズや存在部位的にも特にむずかしくないと思われる症例、横隔膜直下で人工腹水を必要とする症例、尾状葉の症例、心臓近傍の症例、肝門部で門脈や肝静脈に接する症例、5cm大の病変の症例、5個以上の病変がある症例、大腸癌や乳癌の肝転移症例、病変が不明瞭なため造影超音波ガイド下に治療した症例、病変が超音波で描出されずfusion imagingで病変の存在部位を同定して治療をした症例、等のライブデモンストレーションを行なった。これらの症例により、適切な体位の重要性や我々の開発した穿刺専用超音波プローブ、ラジオ波焼灼術用手術台の有用性、ソナゾイド造影超音波ガイド下やfusion imaging下のラジオ波焼灼術の実施方法を教示した。
参加した医師達には、人工腹水や人工胸水、造影超音波ガイド、fusion imagingガイド等の技術をまったく特別視せず日常的に(順天堂ではこれらのテクニックをそれぞれ45%、7%、57%、54%の症例で使用している)実施しているhighest volume centerの実力、我々の開発した穿刺専用プローブやラジオ波焼灼術用手術台、週5回のカンファランスによるプランニングや治療効果判定、綿密な外来フォロー等、全て驚きの連続だったようだ。どの症例でも治療終了後に質問攻めに合った。タイトでハードなスケジュールであったにも関わらず、その姿勢は最後まで変わる事はなく、彼らの、自国でより良い医療を行いたいという信念の強さをひしひしと感じた。少し話は逸れるが、日本の場合は、彼らに比べると恵まれた最新の設備環境下にありながら、強い熱意で粘り強く取り組もうとする意識がやや薄い感がある。日本の医師達にもラジオ波焼灼術に携わろうとするからには、彼らのようなある意味貪欲な強い意識で臨んでいってほしいと願う。
7日間を終了した後、参加した医師達からお礼や感想のメールが寄せられ、いかに好評であったかが感じられた。我々も参加者も満足な結果を得る事ができたと思う。ただ中には、あまりにもハード過ぎた、という感想もあった。それに対しては、ラジオ波焼灼術を希望する患者がいる以上、今回体験してもらったすべての過程が必要であり、このスケジュールはトレーニングプログラム用に特別に用意したものではなく、我々の日常をそのまま見てもらっただけである、と答えたい。
我々の元でラジオ波焼灼術を学んだ医師達が、今後もたゆまぬ研鑽を積んでラジオ波焼灼術を会得し、多くの患者を救えるような医師に育つよう願ってやまない。
また、受講者のアンケート結果をまとめたものをpdf ファイルで添付します。次をクリック下さい。 S1 Questionnaire Results